大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和35年(ワ)350号 判決 1961年8月29日

原告 株式会社伊予銀行

被告 九州産肥倉庫株式会社

主文

本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は、「大分地方裁判所昭和三五年(ケ)第六三号不動産競売事件につき、昭和三五年一〇月七日同裁判所が作成した別紙第一目録記載の配当表を同第二目録記載のとおり変更して配当する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その原因として、

一、債権者被告、債務者合資会社金益商会間の大分地方裁判所昭和三五年(ケ)第六三号不動産競売事件につき作成された配当表は別紙第一目録記載のとおりであるが、これによれば、原告に対する配当額の記載がない。

二、しかし原告は被告に優先して別紙第二目録記載のとおり配当を受くべき権利がある。すなわち、

原告が株式会社伊予合同銀行と称していた昭和二五年二月二三日訴外合資会社金益商会との間に次の内容の期間の定めのない債権元本極度額を金一五〇万円とする手形割引根抵当権設定契約をなし、同日右訴外会社及びその代表者たる小野益見各所有の別紙第三目録記載の不動産につき大分地方法務局受付第五三九号をもつてその旨の登記を了した。その後右物件中(6) (7) (9) (10)(11)の物件と大分市大字大分字草場二二七一番の五の宅地及び同番の六の宅地とを(8) に合筆し更にこれを別紙第四目録記載のとおり分筆した。

(イ)  右訴外会社が振出、裏書、引受若しくは支払保証をした為替手形又は約束手形につき、同訴外会社又は右手形の所持人から割引依頼があつたときは原告は金一五〇万円の極度まで反覆割引きをする。

(ロ)  右訴外会社はその所有土地に対し原告のため順位第一番の抵当権を設定する。

(ハ)  右手形割引契約は原告の都合により五日前の予告をもつて解約することができ、解約によつて債務の弁済期が到来するものとする。

(ニ)  割引歩合はその都度原告の指定した率により、遅延利息は日歩四銭とする。

(ホ)  原告割引の手形が偽造、変造にかかるものであつても右訴外会社は右手形金の支払いの責を負う。

(ヘ)  右訴外会社又は保証人小野益見が第三者から保全処分、競売申立、強制執行又は破産の申立を受け、又は手形交換所から不渡処分若しくは警告を受けたとき、或いは本契約による弁済義務を怠つたとき、その他債務の履行に関し原告に危惧を抱かせる事態を惹起したときは原告は何時でも本契約を解除し債務の取立をすることができる。

(ト)  抵当物件については原告の承諾をえないでその価値を減少し又は抵当権実行の妨害となる行為をしてはならない。

(チ)  手形金をその期日に支払わない場合、原告は右訴外会社又は保証人の預金から手形金に充当することができる。

(リ)  原告が本契約の金額を超えて割引した分についても右訴外会社はその手形金の支払義務を負う。

三、その後右物件について株式会社日本勧業銀行が第二番の、被告が第三番の、片倉肥料株式会社が第四番、第五番の抵当権を順次設定しその登記を経たのであるが、昭和三〇年一二月二〇日株式会社日本勧業銀行において右抵当権実行のため別紙第四目録記載の物件中(15)の物件を除く全部外三筆の物件につき競売の申立をなし、右は大分地方裁判所昭和三〇年(ケ)第一五三号事件として係属し、競売の結果原告は同裁判所から昭和三二年六月一一日金六六八、六四七円、同年九月四日金七六二、四〇四円、同年一〇月一六日金三一七、一〇九円合計一、七四八、一五〇円の配当を受けた。

なお、日本勧業銀行はその後同年中に右訴外会社に対する抵当権実行のため別紙第三目録記載の物件中(1) 乃至(5) 、第四目録記載の物件中(15)他十五物件につき競売の申立をなした(大分地方裁判所昭和三二年(ケ)第八五号)

四、原告は前記競売及び配当金受領に拘わらず右訴外会社との間の前記与信契約を継続していたのであるが、昭和三四年四月二七日右訴外会社は原告の同意を得、次の約定のもとに訴外国益肥料株式会社と債務者の地位を交替し、原告は右更改契約により別紙第三目録記載の(12)(13)(14)の物件に対し同年六月二六日大分地方法務局受付第六三二八号をもつて債権元本極度額金一五〇万円、延滞損害金日歩四銭、債務者国益肥料株式会社とする根抵当権変更登記手続を了した。

(イ)  国益肥料株式会社は旧債務者合資会社金益商会と交替して旧債務者の負担したと同額の債務を負担し、旧債務者と原告間の前記約定のとおり義務を履行する。

(ロ)  原告は債務者間の交替を承諾し旧債務者と同一の条件をもつて新債務者との間に手形取引を継続する。

(ハ)  原告は債務者交替と同時に旧債務者が負担する手形債務を免除する。

(ニ)  担保物件の所有者は旧債務者の債務の担保に供した根抵当権をそのまま新債務者に移すことを承諾する。

(ホ)  旧債務者及び訴外小野益見は新債務者のため連帯保証する。

(ヘ)  旧債務者の連帯保証人は新債務者のため連帯保証する。

ところで右根抵当物件中(13)の物件について所有者たる合資会社金益商会において昭和三五年四月二八日分筆手続をしたところ地番も改正され、

(い)  大分市大字大分字草場二二七五番の一、宅地三〇坪

(ろ)  同番の二、宅地二〇坪二合九勺

となつた。

五、被告は右(い)(ろ)及び別紙第三目録中(12)(14)の物件につき合資会社金益商会に対する抵当権実行のため昭和三五年六月一六日大分地方裁判所に競売の申立をなし、右は同庁昭和三五年(ケ)第六三号事件として係属した。

六、ところで根抵当権はその特質上与信契約に基づき発生し消滅するであろう、変動極まりない一団の不確定の債務について、極度額を限度とし、無限にこれが担保作用を営むものあでるから、前記三のとおり、本件共同抵当物件の一部につき、第二順位の抵当権者である訴外株式会社日本勧業銀行が抵当権の実行をなした際、原告はその売得金中より極度額並遅延損害金の配当を受けたけれ共、これによつては根抵当権は消滅せず、原告は依然として本件競売物件につき債権元本極度額金一五〇万円、順位第一番の根抵当権者であり、配当表作成時には新債務者国益肥料株式会社に対し既に金一五〇万円以上の債権を有していたのであるから、右物件の売得金から別紙第二目録記載のとおり被告に優先して弁済を受ける権利がある。よつて本訴請求に及んだと述べ、被告の答弁に対し、原告の国益肥料株式会社に対する債権は被告の右競売申立後に生じたものであることは認めると述べた。

被告代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、

請求原因のうち一の事実、二のうち(イ)から(リ)を除く事実、三の事実、四のうち主張の更改契約に基き主張の物件に対し主張の登記がなされた事実及び別紙第三目録中(13)の物件が主張の如く分筆され地番が改正された事実及び五の事実は認める。被告が前記物件に抵当権の設定登記を受けたのは昭和三〇年五月一六日であり順位は第四番である。四の事実中主張の日時に主張の約定をもつて債務者交替の更改契約をした事実は敢えて争わない。その余の事実は全部否認すると述べ、答弁として、

一、原告はその自認する如く大分地方裁判所昭和三〇年(ケ)第一五三号事件において債権元本極度額一五〇万円を超えて合計金一、七四八、一五〇円の配当を受けたのであるが、その詳細は次のとおりである。

(一)  昭和三二年六月一一日に、昭和三〇年七月一四日約束手形貸付金一五〇万円とこれに対する昭和三一年七月一日より同三二年六月一一日まで日歩四銭の割合による延滞損害金二〇七、六〇〇円合計一、七〇七、六〇〇円の請求に対し金六六八、六四七円。

(二)  昭和三二年九月四日に、右金一五〇万円の残金一、〇三八、九五三円及びその元金に対する同年六月一二日から同年九月四日まで前記の割合による延滞損害金三五、三二二円合計一、〇七四、二七五円の請求に対し金七六二、四〇四円。

(三)  同年一〇月一六日に、右金一五〇万円の残金三一一、八七一円及びその元金に対する同年九月五日から同年一〇月一六日まで前記の割合による延滞損害金五、二三八円合計三一七、一〇九円の請求に対し全額。

二、さて、根抵当権貸越契約による取引は根抵当権の実行により終了するものと解すべきところ、原告と訴外合資会社金益商会との間の前記根抵当権契約は右競売事件の競落許可決定日若しくは原告が最初に配当を受けた昭和三二年六月一一日に終了し、かつその弁済期が到来したものである。しかも原告は右のとおり元金及びその遅延損害金全額の弁済を受けたものであるから既に抵当権者ということはできない。

従つて原告主張の債務者交替による更改契約は無効のものでありこれに基いてなされた主張の根抵当権変更登記も無効である。右変更登記は既に消滅に帰した根抵当権設定登記が未だ抹消されていないのを幸いにこれを利用してなされたものにすぎない。

原告が本件において主張する貸付債権金三、〇八九、一六〇円は本件競売申立後において一挙に訴外国益肥料株式会社と手形割引取引をなして生じたものであるが、右は明らかに原告が訴外金益商会と情を通じて同商会の被告に対する債務を免れようとした詐害行為に外ならない。

以上のとおりであつて原告の本訴請求は失当であると述べた。

理由

原告が昭和二五年二月二三日、訴外合資会社金益商会との間に債権元本極度額を金一五〇万円とする期間の定めのない手形割引根抵当権設定契約を締結し、同日、共同担保物件たる別紙第三目録記載の不動産につき、大分地方法務局受付第五三九号をもつて第一順位の根抵当権設定登記をなし、その後訴外株式会社日本勧業銀行、被告等において、これ等不動産に対し順次抵当権設定登記をしたこと、右第三目録表示の物件中(6) (7) (9) (10)(11)の物件と大分市大字大分字草場二、二七一番の五の宅地及び同番の六の宅地とを(8) に合筆し、更にこれを別紙第四目録のとおり分筆し、昭和三五年四月二八日、分筆及び地番改正により第三目録(13)物件が大分市大字大分字草場二二七五番の一、宅地三〇坪、同番の二、宅地二〇坪二合九勺となつたこと、及び昭和三〇年一二月二〇日、訴外日本勧業銀行が抵当権実行のため第四目録記載の物件中(15)物件を除く全部外三筆の不動産につき大分地方裁判所に競売の申立をなし、右は同庁昭和三〇年(ケ)第一五三号事件として係属し、これ等物件が競落された結果原告は昭和三二年六月一一日金六六八、六四七円、同年九月四日金七六二、四〇四円、同年一〇月一六日金三一七、一〇九円合計一、七四八、一五〇円の配当を受けたこと、並びに被告が債務者訴外合資会社金益商会に対する抵当権の実行として第三目録記載の物件中(12)(14)の物件及び同(13)物件の分筆、番地変更のあつた前記(い)(ろ)の物件につき、昭和三五年六月一六日、大分地方裁判所に、競売の申立をなし右は同庁同年(ケ)第六三号事件として係属し、競売代金の配当につき別紙第一目録記載のとおり配当表が作成されたことはいずれも当事者間に争いがなく、原告が前記配当を受けた金員の内容が元本極度額金一五〇万円及びこれに対する昭和三一年七月一日から最終配当日たる昭和三二年一〇月一六日まで日歩四銭の割合による延滞損害金であるとの被告主張に対し原告は明らかに争わないので自白したものとみなす。

ところで本件主要の争点は、大分地方裁判所昭和三〇年(ケ)第一五三号競売事件により、原告において根抵当権設定登記をうけた別紙第三目録記載の物件の一部(第四目録記載物件の大部)が競売されたことによつて原告と訴外合資会社金益商会との間の根抵当契約が終了したか否かである。

原告と右訴外会社間の根抵当契約は前記のとおり期間の定めがないところ、かかる契約は受信者に不信行為の廉があつて根抵当権者自らがその権利を実行した場合終了することはいうまでもない。(昭和四年一二月九日大審院判決)。けだし債務者との信頼関係に破綻を来たしたからである。

ところで前記競売事件は右の場合と異なり、第三者たる訴外株式会社日本勧業銀行が第二順位の抵当権に基き、原告の有する第一順位根抵当権の目的物件の一部を競売に付した場合であるので、このように根抵当権設定物件が第三者の権利の実行により競売に付された場合根抵当契約は終了するか否かについて按ずるに、その競売の結果根抵当権者が根抵当権設定物件をもつて被担保債権の満足を得ることについては自らその権利の実行をした場合と径庭なく、競売によつて該物件の所有権が競落人に移転しその上に存する根抵当権は当然に消滅するに至ること両者間に何等の相違がないし、これによつて根抵当権者の債務者に対する与信の根拠が失われること根抵当契約の性質上明らかなところであるから、かかる場合根抵当契約の解除をまつまでもなく該契約は当然に終了するものと解するのが相当である。

右の理は、競売物件が根抵当権の設定があつた共同担保物件の一部にすぎない場合にあつても同じである。若し共同担保物件の一部でも残存する限り根抵当契約は存続するものとする見解に従えば、競売後生じた債権についても担保することとなり、著しく後順位抵当権者の権利を害するので到底かかる見解には左袒し難い。

されば原告と訴外会社金益商会との間の根抵当契約は訴外日本勧業銀行の申立にかかる当庁昭和三〇年(ケ)第一五三号事件の競売により終了したものというべく、しかも原告は前記認定のとおり極度元本たる金一五〇万円及びその延滞損害金金額の配当を受け終つたのであるからこれにより原告の根抵当権は完全に消滅したものといわざるを得ない。けだし根抵当権は、根抵当契約終了と共に普通の抵当権に転化するものであり原告が前記のとおり被担保債権全額の配当を受けた以上、原告の右抵当権は附従性の結果として存在の意義を失つたからである。したがつて又、根抵当権者が第三者の実行する競売手続に参加して配当を受くることを以て、恰かも与信契約継続中債務者が任意の弁済をなすものと同一に理解することは許されない。

してみると、前記根抵当契約が依然継続し、原告主張の更改契約によつて新債務者となつた訴外国益肥料株式会社に対し債権を有するとして、被告に対し、被告申立にかかる前記当庁昭和三五年(ケ)第六三号事件の実行により競売された前記(12)(14)及び(い)(ろ)の物件の売得金から優先弁済を受けうると主張する原告の本訴請求は失当であつて棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 島信行 藤原昇治 梶田英雄)

第一目録

昭和三五年(ケ)第六三号

配当表<省略>

第二目録

昭和三五年(ケ)第六三号

配当表<省略>

第三目録

<省略>

第四目録

(8)  大分市大字大分字草場二二七二番の一

一、宅地 一三八坪

(15) 同所同番の四

一、宅地 一〇九坪二合七勺

(16) 同所同番の五

一、宅地 八七坪六合七勺

(17) 同所同番の六

一、宅地 六〇坪二合八勺

(18) 同所同番の七

一、宅地 五七坪七合八勺

(19) 同所同番の八

一、宅地 五五坪二合

(20) 同所同番の九

一、宅地 五三坪四合六勺

(21) 同所同番の一〇

一、宅地 四一坪六合

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例